安部 拓朗 | |
PROFILE 1988年愛媛県生まれ。首都圏にて塾講師となる。30歳の転機に、地元へとUターン。現在の(株)愛亀にてIKEEグループ企画チームとして海外事業部業務を兼任。過年度に環境省の海外展開 FS、 UNDP のリサイクル調査委託、JICAのビジネス化、今年度は経産省のインフラFSを受注、現在は インフラFSの担当および海外展開事業全般、海外法人経理を行う。海外事情に触れるにつれ、業界の抱える課題解決とともに、海外における日本のプレゼンス向上を思うようになった。 |
国際経済秩序の構築は日本国民を守る壁であり、富を生み出す基盤
ルールに基づく国際経済秩序は、日本を、ひいては日本国民を守る第1の壁となり、日本が海外から稼ぐための基盤となります。日本の人口・国力が低下する中においては、日本は海外、特に大国からの影響をより受けやすくなり、国富を増大させる際の海外の役割は大きくなります。米国・欧州や中国などの大国とパワーゲームをしても地力において押し負けることが必至な中、我々は日本を守る強固な壁を作らなければなりません。その最良の手段は、大国に留まらない多数の国々も含めた、より広い枠組みで「国際ルール」を作ることです。しかし、その国際経済秩序が今揺らいでいます。また、日本の国内市場が縮小し続け、日本国内だけで富を生み出し続けることは難しい中で海外市場の獲得こそが日本の国富増大の活路です。その際、重要となるのは、日本企業の製品・サービス・技術が環境や人権、安全保障上の「国際的なルール」と整合的であることが求められます。そのルールをできるだけ日本に有利な形で作ることが、日本が海外で有利に稼ぐための基盤になります。言わば、日本企業はルールのレイヤーと製品・サービスの競争力レイヤーの2つのレイヤーで戦っています。例えば欧州はCO2排出量の定義に輸送中のCO2排出量を含め、CO2排出量の低い製品への補助金などの優遇策を講じることで、欧州市場内でのアジア製品の競争力を減少させることに成功しています。このように、「国際ルール」のレイヤーで、自分の土俵を作ることで、自国企業の優位性を上げるゲームが世界的には行われており、その「国際ルール」で半分以上勝負は決まっていると言っても過言ではありません。
以上のように、ルールに基づく国際経済秩序という、日本を守る強固な壁であり、富を生み出す基盤を作ることが日本の中長期的な生存を確保するものになります。では、それは具体的にはどんなものでしょうか。順を追って説明していきますが、我々は、その新たなカギになるのは、日ASEANの経済統合、日インド・アフリカ経済圏の構築と考えており、それを「リアリズムに基づく新経済圏の環」と呼びます。
日本を取り巻く対外環境の変化
世界のブロック経済化が世界大戦に繋がったという教訓から導かれた自由貿易の推進とそれを実行するための米国が主導しWTO、世界銀行、IMFを主な担い手としたブレトンウッズ体制は、世界の経済発展に大きく貢献してきました。
しかし現在、自由貿易・グローバリゼーションの無制限な進展は、格差の拡大や環境への悪影響、経済安全保障上のリスクの増大、一部地域における人権侵害事案の増加、など大きな負の副産物を生み出しました。そして、世界各国の国内での支持を得ることが難しくなり、行き詰まりを見せています。自由貿易推進の根幹たるWTOは機能不全となり、WTOの補完的機能として位置づけられた、有志国同士の経済連携協定は大きな広がりを見せつつも、日本にとってのカバー率は既に約8割に達し、自由貿易を推進する枠組みとしては一巡しています。
そのような中、自由貿易の修正を試みる動きは日々拡大しています。米国や中国による安全保障を根拠とする貿易制限措置が多用されており、欧州は環境を理由に国境炭素調整措置の検討を進めています。また、人権事由により新疆ウイグル由来の製品をサプライチェーンから排除するなど、安全保障、環境、人権などの非貿易的事項に基づく貿易制限措置が大きく増加しており、これらも包摂した国際秩序構築が、世界と日本にとって非常に重要です。
中でも、経済安全保障の重要性は特に増加しています。ロシアのウクライナ侵略を契機にガス供給の制限を行い、それが世界の電力料金高騰に繋がった。中国による農林水産品等の輸入制限が各国の一次産業を揺るがすなど、経済的依存の武器化のリスクが高まっています。
その帰結として、半導体やGX(グリーントランスフォーメーション)などの重要分野について、米国のインフレ抑制法、欧州はネット・ゼロ法案などを通じ数十兆円規模の予算を手当するなど、自国の自律性を高める動きとして、これまでと異次元の産業政策競争が始まっています。日本も半導体やGXを中心として、大規模な産業政策を実施しています。
しかし、今後、日本の経済的位置づけが相対的に下がる中で、自律性を高めるだけで本当に十分でしょうか。答えは否で、自国の強化と共に同志国連携の強化が今まで以上に重要になります。
その際、特に重要性が高まるのは新興国・途上国(グローバルサウス)の国々です。グローバルサウスは成長市場、資源供給などサプライチェーンの多様化、国際政治における世論形成などの観点も含めて、中長期的に協調をしていく重要性が高まり続けます。
ブレトンウッズ体制の発足から80年、激変する国際経済環境において、我々は、ブロック経済でもなく、単なる自由貿易でもない、また地域的にも欧米中の大国に留まらない、新しい形の対外生存戦略を描く必要に迫られています。
リアリズムに基づく新経済圏の環こそが日本が国際社会を生き抜く方法
そのような中で、日本が生き抜く戦略として、「リアリズムに基づく新経済圏の環」の構築を提唱します。その本質は、競争が激化する国際社会において、一国への過剰依存を脱し「多様化」するという事です。
同志国として、米国及び欧州、特にG7の国々はこれまでも、これからも重要です。日米関係が日本外交の基軸であることは変わりません。先進国が集まり、ルールメイキングの中心である欧州との関係性は引き続き重要で、米欧との関係構築は基盤として機能します。しかし、それだけでは十分とは言えません。
海外進出・販売先を多様化しておくことは市場獲得の面では利益拡大に貢献し、また経済安全保障的観点では、一国依存度を上げないことがリスクを低減します。
その多様化の観点から注目すべきは、グローバルサウスと呼ばれる、新興国・途上国です。特に重要なのは、日本とASEAN・インド・アフリカの一部の国々とは人・モノ・カネに加えて、データ連係基盤の構築、産業政策の協調なども含めて経済統合を進めるべきと考えています。アフリカや南米など関税等の壁がある国々との壁は今後、経済連携協定を結ぶことにより壁を破壊していくべきです。他方、一方的な貿易措置や環境ダンピングされた貿易については、貿易制限による対抗や国境炭素税などによる壁=貿易的措置を適切に設計しこれにより日本の産業・生活を守ることが重要です。
更に、経済力の低下もまた経済安全保障上のリスクであり、特に市場としての重要性が高い特定国とデカップリングを志向するべきではありません。経済安全保障上の懸念がない範囲では、技術流出や過剰な一国依存にならないように留意しつつ、市場獲得を最大化し、国力を向上させることが重要です。
以上の考えを実装するために、
を具体的に進めていくことが重要です。これらを通じて、日本の国益の最大化・安定化が実現できると考えます。
環の構成
3. 未来のために何をすべきか
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