信頼に基づく新経済圏の環
(2024年12月)

2. 目指すべき未来の姿

福岡功慶の写真 福岡 功慶
PROFILE
2007年東京大学工学部計数工学科卒、2018年米国イェール大学 総合学術大学院 国際・開発経済学修士。
国家公務員として化学産業、ヘルスケア産業の振興業務に従事。その後、タイへの駐在、インフラ輸出や日本企業の海外サプライチェーンの高度化、南西アジアの担当を経て、現在は洋上風力事業の推進を担う。
そのような中、民間有志との議論を通じ、現場の問題意識に基づき、真に社会に影響力のある政策案を立案したいという思いから、Policy makers labを設立。

2.1 対外経済政策における自由主義と保護主義の振り子

 対外経済政策に関する考え方は、世界的に、歴史的に自由主義と保護主義の間を振り子のように行ったり来たりしています。今後の大きな流れとしては、自由貿易の限界を踏まえた上で、経済安全保障や環境・人権事由なども包摂しながら、より高次の国際経済秩序の構築を目指してくことになると我々は予測します。

 その際、テーマ別に同志国で経済・産業政策の協調等を行う形での連携が重要となっていきます。

 例えば、電気自動車に必要不可欠なバッテリー関連では、バッテリー製造に不可欠な重要鉱物の採掘・精練はアフリカ(ザンビア、ナミビア、コンゴ民)、部素材加工については日本、半導体のデザイン・設計においてはインド、全体セットアップ及び需要者はASEAN、インドが担うなど、同志国によるサプライチェーン全体での持続可能性・強靭性を強化していく必要があります。

2.2 グローバルサウスにおける重点国(GS25)の設定

 日本がグローバルサウスへの関与強化を進めるにあたり、全ての国を対象とすることはリソース制約の観点から、効率的・戦略的とは言えません。そのため、グローバルサウスの中でもリソースを集中投入すべき国を設定することが重要です。

 その際、重点国についてはどのような基準でどのような国を選ぶべきでしょうか。我々は、その国の市場の大きさ・今後の成長見込み、重要鉱物の有無、GXキャパシティなどを考慮してスコアリングを試みました。その結果、インド、ブラジル、インドネシア、メキシコ、サウジアラビア、ナイジェリア、トルコ、バングラデシュ、フィリピン、タイ、ベトナム、UAE、エチオピア、マレーシア、シンガポール、コロンビア、コンゴ民、チリ、ペルー、タンザニア、ケニア、カタールなどグローバルサウスの重点25か国(GS25)を選定しました。

 GS25への政策リソースの集中により、日本企業が海外で稼ぐための橋頭保を構築していくことが、日本が中長期的に生き抜くためには重要です。

図表2-1 グローバルサウス25の国々
# 国名 # 国名 # 国名 # 国名 # 国名
1 インド 6 ナイジェリア 11 アルゼンチン 16 コロンビア 21 アルジェリア
2 ブラジル 7 トルコ 12 フィリピン 17 コンゴ民主共和国 22 タンザニア
3 インドネシア 8 パキスタン 13 エチオピア 18 イラク 23 カザフスタン
4 メキシコ 9 バングラデシュ 14 マレーシア 19 チリ 24 チリ
5 サウジアラビア 10 エジプト 15 シンガポール 20 ペルー 25 カタール
出所:筆者作成

2.3 日本の対外経済構造とベンチマークとするべき国(ドイツ・韓国・シンガポール)

 日本の対外経済戦略を構築する上で、どの国をベンチマークとするべきでしょうかドイツと韓国は経済規模や製造業を得意とする産業構造など共通点が多く、また対外経済に強みを持つことから、ベンチマークとするのに適していると考えられます。また、金融資産を運用し、新興国の成長を自国の成長に繋げているシンガポールの事例も学ぶべき点が多いでしょう。

 ドイツ・韓国から学ぶべき点は、大きく3つに集約されます。

官民一体:グローバル市場の獲得に官民が一体となって取り組む
韓国のKOTRAなどによる商品開発支援、プラットフォーム構築支援、海外売り込み・販路開拓支援、ドイツにおいては、在外公館等の支援機関によるサポート、見本市運営会社によるサポ―ト、貿易保険等の金融支援の要素で構成
国際基盤構築:国際枠組みの効果的な構築・活用
EU加盟による慢性的な通貨安の獲得(独)、世界有数のEPA締結国(韓)
自国産業育成:自国内産業の国際競争力強化支援
GX・DXなど成長分野の自国企業の育成(研究開発・設備投資等)を徹底的に支援

図表2-2ドイツの対外経済支援体制
図表2-3シンガポールテマセクのポートフォリオ
ドイツの対外経済支援体制 シンガポールテマセクのポートフォリオ
出所:伊藤白「ドイツの対外経済政策 ―中小企業の国際展開を中心に―」(総合調査報告書「国立国会図書館調査及び立法考査局編、2012年)より抜粋
出所:野呂瀬和樹・井ノ口雄大「シンガポールにおける政府系ファンドと政府系企業の「協奏」」(野村総合研究所「知的財産創造/2013年2月号」)より抜粋

 シンガポールについて、特筆すべきは金融資産の活用です。シンガポールはテマセクやGICの政府系ファンドが、傘下のVertexなどのベンチャーキャピタルも活用しながら、先進国に加えて、東南アジアやインドの成長産業にいち早く戦略的にアプローチして非常に高い運用実績を叩き出しています。これらにより、周辺地域の成長を自国の成長に結びつけています。

 以上のように、ドイツ、韓国、シンガポールなどの秀でた点を参考に、日本は対外経済政策の高度化を目指すことが重要です。具体的には、官民一体による(特に、中堅中小企業)海外展開の支援強化、EPAの締結拡大、経済統合による自国通貨の割安誘導、政府系ファンドの金融資産の戦略的運用により、周辺地域の成長力を自国の成長に繋げる取組の強化などを進めることが重要です。

目次

環の構成

3. 未来のために何をすべきか