国内の産業活性化・強靭化の環

-強くしなやかな国を目指す-
(2024年12月)
柳本友幸の写真 柳本 友幸
PROFILE
1977年大阪府生まれ。2002年、東京大学法学部卒。2020年、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツマネジメント修士号取得。大学卒業後、戦略コンサルタント、投資ファンド等で経験を積む。東日本大震災後には、岩手県の大船渡市・陸前高田市・住田町が申請した「気仙広域環境未来都市」の医療介護分野コーディネーターとして、震災からの復興と、環境問題と高齢化に対応したまちづくり事業に従事。現在は再生可能エネルギーの導入・運用・コンサルティングを行うサステナジー株式会社の副社長として勤務する傍ら、個人でコンサルティングも行っている。

 私たちは、今後の日本の就労者の生産性は、年率4.0%で成長させることが可能であると考えています。高いレベルの教育を受けており、勤勉で高い倫理観を持った日本の国民は、適切な政策が実行されることで、問題なくこの程度の成長率を実現可能です。日本の平均年収は、バブル崩壊後のいわゆる「失われた20年」で下がり続けました。コロナ後の人手不足で多少上昇傾向にあるものの、まだ1997年の最高値である467万3000円を上回っていません。25年にわたってゼロ成長だった分を取り戻すと考えれば、年率4.0%でも低すぎるぐらいです。なお、この成長は、今後就労人口が減少する中で、日本が国際経済の中で一定の立ち位置を持ち続けるためにも、また、増加が見込まれる社会保障費を賄うためにも、必要でもあります。1人当たりの生産性成長率が4.0%ということは、(生産性と収入が近似すると想定すれば)2040年まで就労者の年収がほぼ2倍になる計算になります。

 私たちは過去の失敗から学ぶことができます。例えば、無制限に経済活動を推進させると、公害の発生や住環境の悪化が起き、都市と地方のバランスが崩れることを知っています。自国の経済成長だけを優先すると国際関係が困難になることを知っていますし、需要のないところに公共投資で新たな産業を開発しようとすると不良債権が生まれることを知っています。自己責任に任せて弱者を保護しないことが、ワーキングプアを増加させ事態を悪化させることを知っています。低金利や金余りが必ずしも産業の活性化につながらないことも知っていますし、トリクルダウンが幻想であることも知っています。私たちは、生活環境を向上させ、いたずらに政府支出を増やさず、格差を拡大させず、経済を成長させ収入を増加させることができるはずです。

 そのための政策として、本章では4つの環を設定しています。

 「産業活性化の環」では、成長のエンジンである大企業の高度化と、スタートアップの増加促進について述べるほか、生産性向上が相対的に遅れている中小企業の成長と新陳代謝の促進について記述しています。また、1人当たりの生産性を向上させ続けるために、人的資本の蓄積が促進されるような雇用政策のあり方と、研究開発の新しいあり方についても記載します。

 「環境負荷の低い持続可能性の環」では、豊かな日本の自然環境の保護と国際的な環境変動問題への対応のために、再生可能エネルギーの利活用促進、自然保護、非都市部での環境維持のための取組について述べます。

 「デジタル国土強靱化の環」では、人口が減少傾向にある中、既存のハコモノ投資ではなく、デジタル技術の活用をテコにした防災と地域活性化について記載します。

 最後の「食料の環」では、様々な環境要因から低い生産性に止まっている日本の農林水産業を持続可能にするための政策について述べた上で、有事に備えた食料の安全保障のあり方を記述します。

(1) 産業活性化の環

(2) 環境負荷の低い持続可能性の環

(3) デジタル国土強靭化の環

(4) 食糧の環