産業活性化の環
(2024年12月)

地域の観光情報の発信能力強化及び観光活性化

いま起こっていること

 2006年に観光立国推進基本法が制定されたことを契機に、日本への諸外国からの観光客が爆発的に増加しています。2008年には観光庁が発足し、民間からの出向者を盛んに受入れながら矢継ぎ早に打ち手を実行するとともに、柔軟な予算立案を行うことで「観光立国」の促進に極めて精力的に取り組み続けています。しかしながら、今なおインバウンド旅行者の規模に対して国及び各地域が対応しきれているとは言い難いのが現状です。

 観光庁の取組に後押しされて先進的なエリアにおいてはデジタル技術の活用が進んでいます。多言語話者をビデオ会議システムでつなぐことで外国人向けの観光案内機能を提供したり、多言語対応の観光案内サイネージなどを設置したりする自治体や観光協会もでてきています。一方で、観光案内所に多言語対応のパンフレットを置くといった従来型の対応にとどまり、観光地の魅力を十二分に伝える体制が整っていないエリアも未だ多く存在しています。ちなみに、日本人の国内旅行者数に関しては観光立国推進基本法が制定された2006年以降も決して増加傾向にはありませんので、こうした魅力の発信不足は海外向けのみならず、国内旅行者に向けても同様の状況だと言えるでしょう。

 ただ、そんな状態であるにもかかわらず海外からの旅行者は増え続けていますので「現地に来てはみたが、どこに行けばよいのかわからない」「現地の観光客受入れ能力を上回っていて、十分なサービスが受けられない」といったことが発生しています。観光立国を志し、積極的にインバウンド観光客を受入れるという官民を挙げての取組は一定の成果を出していますが、受入れ体制の構築や観光スポットの魅力の発信は各エリアの散発的な取組に任されている状況ですので、デジタル技術も活用しながら地域間格差の解消と観光客の集中による「公害化」に対処することが求められています。

すでに政府が取り組んでいること

 観光立国推進基本法に基づいて2023年に「観光立国推進基本計画」が閣議設定されました。この計画では「観光立国の持続可能な観光地域づくり」「国内交流拡大」を主要戦略に掲げ、あらゆる国内観光エリアにおけるデジタル対応を推進することを目指し、地域間の観光格差の解消と、訪日外国人及び国内旅行者への適切な情報発信による観光体験の向上が期待されています。また、各種統計データの公開により旅行者の行動分析や意向の把握の推進についても盛り込まれています。

 しかしながら観光投資の状況は地域によって様々です。観光客がそれほど集まらないエリアでは継続的な観光投資を行うことができず、魅力の発信が実現されていません。一方、観光客が集中するエリアではオーバーツーリズムが発生しています。エリア内に複数の観光スポットが存在していても特に有名なスポットにのみ観光客が集中し、周辺への適切な顧客分散が行われていないことも多くあります。魅力的な観光地情報を提供して地域に人を呼び込むことと、その地域に来た観光客を周辺スポットへ適切に分散させることの2つの取組を並行して実行していくことが観光投資の目指すべき姿ですが、実態としては観光地ごとに提供される情報がバラバラで、各地の観光協会の活動にも統一性がありません。これはその土地を初めて訪問する観光客には不親切な状況です。

めざすべき未来の姿

 こうした課題を踏まえて将来的に目指すのは、観光客1人1人が知りたい情報に簡単にアクセスできて、本当に行きたい場所に辿り着ける情報環境が整備されることだと言えます。100点満点の“スター観光スポット”だけに人が集まる状態から脱却し、周辺の60点、70点のスポットにも興味を持ってもらうことができれば、当該エリアの回遊が促進されて合計の滞在時間が伸びることにより飲食費や域内交通費などのエリア観光消費の増加が期待されます。また多くの人にとっては30点、40点にしか見えないスポットであっても、その場所に特別な興味を持つ観光客から見ると90点や100点の価値を持つこともあり得ますので、そうした情報もしっかりと届けていくことが重要です。

 この活動を通じて観光客の回遊ニーズを増やすと同時に満足度を高め、観光立国推進基本計画に記載された「2025年までに、訪日外国人旅行者1人当たり地方部宿泊数2.0泊(2019年時点は1.4泊)」を継続的に拡大していくことを目指します。また、2050年の訪日外国人をフランス並みの9,000万人に拡大することを目指します(2023年時点は3,000万人)。

未来のために何をすべきか

政策案 スマホを活用した回遊促進の実行(多言語対応を含む)

 集客の肝となる“スター観光スポット“を核に据えた、回遊ルートの提案機能を提供することを目指します。各観光エリア及び各自治体が適切な仕組みを導入できるように、国土交通省地方運輸局等(各地域の観光に関する施策を所掌)を中心にモデルケースを作ります。この機能にはライドシェアや、観光施設の事前予約機能等も組み込むことを期待します。

具体的な機能要件

  • スマートフォンを用いて、簡単にアクセスできる
  • 多言語対応が行われており、外国人旅行者にも活用を促せる
  • SaaS等の形態になっており、各エリアでの活用時に開発費用が抑えられる仕組みである
  • GPS等を用いた、回遊結果の計測が可能である
  • (Nice-to-Have)ライドシェア、観光施設の予約機能等が組み合わせられる
  • (Nice-to-Have)特定のミッションを設定し達成者に対するインセンティブを付与するようなゲーミフィケーションが組み込み可能である

想定される用途

  • 自治体や観光協会が主要観光施設のスポット情報及び、モデル観光ルートを登録する
  • 観光ガイドブックの版元や観光情報サイトの管理事業者が、スポット情報、モデルルートを登録する
  • 広告代理店が、周辺の飲食店や販売施設等の情報を収集し、スポット情報を登録する
  • 地域の祭りやイベントに合わせて、期間限定の回遊ルートを設定する
  • 計測された回遊データを元に、スポット情報及び回遊ルートを更新する

さらに、他の地域で参考になるモデルケースとなり得る観光地の事例を選定した、モデル観光地の表彰制度及び、その地域で活用されたサービスに対する認定制度を設定します。

政策プロセス
 まず、総務省から依頼する形式で全国自治体(1718市区町村)に対する意識調査を行い各地の観光における取組状況を把握した上で、問題意識が高く、改善意向が強いエリアをモデルエリアに選定し、国土交通省地方運輸局等が中心となって観光地域づくり法人を伴走支援しながらモデルケース創出に取り組みます。この意識調査の回答者は、自治体もしくは、自治体が指定する観光協会や観光地域づくり法人、もしくは当該地域の適切な観光事業者を想定しています。このモデルケース創出へ向けた実証実験の結果で効果の見られたソフトウェア・サービスに関しては導入推奨ソフトウェアに認定し、各自治体で採用時に国から補助金を支給します。

 このステップを通じて2030年までに500自治体への展開を目指します。また、その過程において各地で計測された回遊実績データを元にした「域内回遊状況」をレポートすることで、他エリアとの横ぐし比較を可能とし、施策の改善を検討する機会を増やします。本施策の実行により、観光立国推進基本計画に記載された目標である「持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数を、2025年までに100地域(うち国際認証・表彰地域 50地域)にすること」に貢献するとともに、将来の更なる増加を目指します。

 この施策は、現在の観光庁関係予算のうち「観光統計の整備」「全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」「ICT等を活用した観光地のインバウンド受入れ環境整備の高度化」「地域における受入れ環境整備促進事業」「ストーリーでつなぐ地域のコンテンツの連携促進事業」「地域観光資源の多言語開設整備支援事業」などを横断した施策となります。そのため、こうした関連予算のおよそ2%にあたる10億円規模を、横断的施策の補助金予算として活用することで機動的な補助金活用を実現していきます。具体的には、回遊キャンペーンを実施する自治体に対して、最大1000万円(補助率2/3)を補助するスキームを設置します。さらに、適切な回遊ルートを複数件設置したと認められた自治体には追加の支援を行います。こうした施策を通じて、2025年までに持続的な観光地域「100地域」という目標を達成していきます。

目次

(1) 産業活性化の環

(2) 環境負荷の低い持続可能性の環

(3) デジタル国土強靭化の環

(4) 食糧の環