産業活性化の環
(2024年12月)

東京証券取引所区分におけるグロース市場の成長

いま起こっていること

 東証マザーズ市場(現・東証グロース市場)に上場している企業の多くは、時価総額が低く、実質的な流通株式が少ないことから株価変動が激しくなっています。そのため、一般投資家(個人投資家)による短期目線での投機的投資の場となっているのが現状です。なお、安定的に株式を保有する可能性が高い機関投資家は、自らの保有割合が高くなりすぎないように時価総額200億円を超える企業を投資対象として選ぶことが多く、東証マザーズ市場に多い時価総額数十億円程度の企業に対する投資は手控えられてしまいます。

 こうした状況を踏まえ、マザーズ市場は2022年にグロース市場として再編されました。それにより「高い成長可能性を実現する」ことを目指す企業が上場することが期待され、また「相対的にリスクが高い」銘柄であることを認識した機関投資家・一般投資家がこれらの企業に投資することが期待されていました。

 それと歩調を合わせて「貯蓄から投資へ」の掛け声のもと、NISAやIDECOなどの各種施策にも後押しされて国民の投資意欲は高まりを見せてきました。そうした動きに伴い、投資を投機と捉える層も市場参加者も増えてきています。特に2022年以降の株価の急上昇により、短期的売買による利ざや稼ぎに目を奪われる個人投資家も多く見られます。実際のところ、グロース市場となって以降も、時価総額が小さく実質的な流通株式が少ない企業が多いという状況は変わっていません。そのためグロース市場の銘柄は、依然として機関投資家の投資対象に選ばれにくく、投機目的での取引が多くなっているままであると言えます。

すでに政府が取り組んでいること

 このようにグロース市場は、その本来の目的である「高い成長可能性」を理解した投資家による中長期的な投資の場とは言えない状態です。そのためグロース市場に上場する企業は、中長期的な成長よりも短期的な収益性、すなわち「今期・来期のPL」、「四半期売上・利益」に焦点を当てた経営を行う必要が出てきてしまいます。これは、グロース企業が安定的に経営し中長期的成長に向けて投資を行う上での大きな障害になっています。

 そこで政府は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」で資産所得倍増プランの推進を示し、新NISAやIDECO等により「個人の投資活動」を強力に後押ししています。新NISAは投資可能額を増加させるとともに保有期間を無期限に延長するなど、長期保有による資産形成を意識した制度になっていますし、IDECOに関しても、加入可能年齢を引き上げることで投資対象者を増やすとともに投資期間、つまり保有期間を延長する効果が見込めます。その他にも、中立的な金融アドバイザーの育成・組織化や雇用主から雇用者に対する資産形成支援への補助金・減税等も検討されており、中長期的な投資環境を整える動きが活発です。

めざすべき未来の姿

 ここまで述べてきたように、現在のグロース市場銘柄は短期的売買を中心とした投機的な投資の場となってしまっています。またその際には、多くの企業に対してPER(株価収益率)で評価する傾向が強い状況です。この考え方は直近の利益額を基準に時価総額を評価することになりますので、今期の売上、今期の利益を多く出すことが株価維持のために求められるということになります。これは、グロース市場に上場している企業にとっては「PLにインパクトのある投資を行うと、株価が下がる」ことを意味します。売上規模が小さい企業にとっては、小規模な投資であっても目先の利益率を大きく低下させることに繋がりますので、当期利益、場合によっては四半期利益を常に確保しながら、中長期的成長を狙っていくのは非常に難易度の高い取組となります。

 こうした状況を踏まえると、グロース企業に対する株式投資をより長期的なものに変化させることができれば、グロース企業が安定的な成長に向けた積極的な投資をできるようになると考えられます。そのため、個人投資家のグロース銘柄に対する平均保有期間、及びグロース指数連動投資信託の保有期間を2050年までに倍増させることを目指します。また、グロース企業の事業成長のための選択肢として大企業による買収の促進も期待されますが、その際にも投資家が不利益を被らない仕組みを設けます。

未来のために何をすべきか

政策案 グロース銘柄を中長期的な投資対象とする投資家に対する減税措置

 グロース銘柄への投資に関しては、中長期的な保有を促進する目的で複数年保有者への税制優遇を実施します。具体的には、2024年現在の税率20.315%(所得税15%、住民税5%、復興所得税0.315%)に対して、5年以上保有で半減(10.315%=所得税7.5%+住民税2.5%)、10年以上保有で1/4(5.315%=所得税3.75%+1.25%)とします。

 グロース市場銘柄がスタンダード市場もしくはプライム市場に市場変更を行った場合には、グロース市場の上場期間において1年以上の保有があった場合に限り、上記減税ルールを継続的に適用します。上記の上場廃止時または買収時には、保有期間が1年以上5年未満の株式に関しても、5年以上保有と同等の半減を適用します。また、売却時の損失発生時の損失繰越期間もグロース銘柄に関しては3年に延長しますが、これは市場変更を行った後は適用されません。

 この減税策により、グロース銘柄を5年以上保有した場合の税収が減ることになります。
しかしながら、世界の株式市場の平均リターンが年間3~5%であることを踏まえると、1年後に売却した場合の利益3~5%に対して、7年後に売却した場合の利益は23.0~40.7%となります。これを比較すると100万円投資した場合の1年後の税収が3~5万円×20%≒8,000円に対して、23~41万円×10%≒3万円となります。この場合、短期的な取引に比べて必ずしも税収が減るとは言えません。また現在は、株式の保有期間という指標が計測されていませんが、これは長期保有に向けた投資家への意識醸成が不十分であることが原因であると考えられます。こうした指標もモニタリングすることも並行して進めていきたいと考えます。

 なお、税制優遇の実行方法としては、税率ではなく控除額を用いることも視野に入れています。その場合には、運用資産の大きな投資家にとってのメリットが小さくなるため市場全体で見た際の長期保有傾向が弱まる可能性がありますが、少額運用者にとってはキャピタルゲインの全額控除を受けることも可能となりますので、検討の余地はあると考えます。

目次

(1) 産業活性化の環

(2) 環境負荷の低い持続可能性の環

(3) デジタル国土強靭化の環

(4) 食糧の環