環境負荷の低い持続可能性の環
(2024年12月)

島嶼部・中山間地等での屋根置き太陽光発電の導入促進支援

柳本友幸の写真 柳本 友幸
PROFILE
1977年大阪府生まれ。2002年、東京大学法学部卒。2020年、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツマネジメント修士号取得。大学卒業後、戦略コンサルタント、投資ファンド等で経験を積む。東日本大震災後には、岩手県の大船渡市・陸前高田市・住田町が申請した「気仙広域環境未来都市」の医療介護分野コーディネーターとして、震災からの復興と、環境問題と高齢化に対応したまちづくり事業に従事。現在は再生可能エネルギーの導入・運用・コンサルティングを行うサステナジー株式会社の副社長として勤務する傍ら、個人でコンサルティングも行っている。

ーーこの漁協の漁師さんたちの収入を、1万円でもいいから増やしたい。そう思って、自分の報酬はゼロにして、漁協の運営委員長を引き受けました。自分が若いころは、良いときは思い切り稼げたが、今はそうではない。再生エネルギーで漁師の収入を増やすことができるなら、ぜひやりたい。(愛媛県漁協宮窪支所 運営委員長)

いま起こっていること

 いわゆるFIT制度の取組を経てもなお、送電網の末端地域ではメガソーラーの導入が難しく、再生可能エネルギーの導入が進んでいません。また、こうした地域は災害時の停電/エネルギー不足リスクがあり、一次産業に依存する中小事業者の経済活動も頭打ちになっています。そこで送電網に負担をかけず、かつ送電ロスなく再生可能エネルギーを利用できる手段として、一般家庭の屋根置きソーラーについても固定価格買取制度が導入され普及推進が図られています。また、自治体によっては屋根置きソーラーの設置について補助金を設けている例が見られます。

 一般に屋根置きソーラーの導入は住宅新築時に行われますが、既存住宅へのソーラー設置は工事見積の負担や初期費用負担の課題等によりそれほど進んでいません。送電網の末端地域は人口が減少しているエリアが多く、結果として家を新築する率も高くないことから、屋根置きソーラーは一般的な再生可能エネルギー導入手段とはなっていません。

 つまり、メガソーラーの導入が難しく、かつ災害時のエネルギー不足リスクも大きい島嶼部等の送電網末端地域において屋根置きソーラーが普及することが望ましい状況ですが、新築の戸建ても少なく、また行政の補助金も少ないことから普及が進んでいません。こうしたエリアにおいて屋根置きソーラーの普及を促進することで、島嶼部に住む方々のエネルギーコストの削減と災害リスクの軽減を進めることが期待されています。

すでに政府が取り組んでいること

 政府としては屋根置きソーラー向けの固定価格買取制度以外の普及施策は行なっておらず、自治体ごとの取組によって普及施策に違いがある状態です。例えば東京都では、新築の戸建てには太陽光発電の設置が義務化されており、導入費用の約4割を行政が負担するなどの手厚い資金的補助がありますが、こうした補助が極めて少ない自治体も多数存在します。また、東京都の事例でも既存の住宅への設置補助はなく、人口が減少傾向にある送電網の末端地域での活用は難しい施策となっています。

 ここまでを振り返ると、人口減少が見られる島嶼部や中山間地などのエリアは、同時に送電網の末端地域でもあり、再生可能エネルギーの導入が難しい上に、災害時の停電・エネルギー不足リスクもあります。こうした地域に住んでいる方々は、農林水産業などの一次産業や観光など地域資源の守り手であり、定住を促進する支援も必要ですが、再生可能エネルギーの導入についてはむしろ財政的に余裕がある都市部に集中しているのが実態です。送電網の末端地域を対象にした、再生可能エネルギーの導入支援施策が必要と考えられます。

めざすべき未来の姿

 2050年までに、島嶼部や中山間地の、一次産業を中心にした農業集落・漁業集落、または観光地において、屋根置きソーラーを中心とした再生可能エネルギーの導入による、完全なカーボンニュートラルの実現をすることが望ましいと考えます。カーボンニュートラルを達成した農産物、水産物、観光地域は、地球環境への貢献を通じて消費者に対してブランドを訴求できるようにもなり、「人口減少地域の振興」「日本全体のカーボンニュートラル実現への貢献」「地域資源の保護と育成」「地域における一次産業の担い手の所得向上」が同時に実現されます。

未来のために何をすべきか

政策案 送電網末端地域(島嶼部・中山間地)での、屋根置きソーラーを中心とした小規模分散エネルギーシステムの導入支援

 対象地域の住民が一丸となって再生可能エネルギーを導入し、地域としてカーボンニュートラルを実現することが必要なため、個別家庭への太陽光発電設備の設置支援補助金制度ではなく、地域として導入する意思決定を行うための推進過程を支援することが望ましいと考えられます。

 はじめに「実現可能性調査事業」を行い、対象地域が排出している温室効果ガスの量を計測した上で、その量をオフセットする再生可能エネルギーの導入が可能かどうか、そうした意向が地域住民にあるかどうかを調査します。

 次に「導入計画策定支援事業」を行い、必要に応じて地域での協議会等も設置しながら、地域としてカーボンニュートラルと再生エネルギーの活用を行うことで、対象地域がブランド価値を高め、地域として振興していくことを可能にする計画を作成し、実行に繋げます。

 次の「具現化支援事業」では、協議会等の運営と地域で共通材として所有し運用する電力施設(送電網の強化、定置型蓄電池や電気自動車充電設備の設置など)へ50%補助等の予算支援を行い、カーボンニュートラルを梃子に地域振興が円滑に進むことを支援します。

 これらの「実現可能性調査事業」「導入計画策定支援」「具現化支援事業」を一自治体で進める場合の予算規模はそれぞれ2,000万円、4,000万円、4,000万円程度で、一か所あたり1億円の予算規模となります。仮に全国の有人離島等の島嶼部約250か所、及び一定以上の世帯数のある中山間地の集落(ここでは約1000と想定する)にて実施する場合、総費用は1,250億円となりますので、この施策を10年かけて全国で実行するならば、単年の予算は125億円となります。

 地方自治体が本制度の趣旨・目的を理解し、地域の集落と対話しながら利用促進を進めることが必要であるため、カーボンニュートラルへの貢献に意欲を示している既存の地方自治体(2050年ゼロカーボンシティを表明している自治体など)との事前の要望ヒアリングなどを遅くとも2030年までに行い、2031年以降は上記の調査事業や計画策定支援事業等を通じて取組意向のある自治体内における具体的な取組を進めます。また、カーボンニュートラルを梃子にしたブランド化や地域の振興について「人口減少地域の振興振興」「日本全体のカーボンニュートラル実現への貢献」「地域資源の保護と育成」「地域における一次産業の担い手の所得向上」の観点から好事例を発掘してPRし、次の好事例が生まれる循環を生み出す広報施策も政府として取り組むことが必要です。

目次

(1) 産業活性化の環

(2) 環境負荷の低い持続可能性の環

(3) デジタル国土強靭化の環

(4) 食糧の環