学童保育の促進
福宮 あやの | |
PROFILE 兵庫県西宮市生まれ。兵庫県立西宮高校声楽科、関西大学文学部、University of Aucklandへの留学を経て、2011年から声優として株式会社ムーブマンに所属。代表作に『truth〜姦しき弔いの果て〜』『ヴァイキング〜海の覇者たち〜』など。 2023年からは声優、俳優として活動しつつ一般社団法人 日本アニメフィルム文化連盟の事務局長に就任。「アニメに未来があることを信じたい」のスローガンの元、人材育成や著作権についての啓発活動など、業界改善に取り組む。プライベートでは一男一女の母。 |
いま起こっていること
高度経済成長期に核家族化が進行し共働き世帯も徐々に増加したことにより、学童保育を取り巻くいわゆる「かぎっ子」問題や「青少年非行」の問題が顕著となりました。同時にいじめや不登校、学級崩壊等も社会問題となり、学校以外にも子どもたちの教育のための“場”を整備することが求められるようになっています。政府の取り組みとしては2007年からは「放課後子どもプラン」2018年からは「新放課後子ども総合プラン」が定められ、これらの具体的な目標として2023年度末までに「30万人分の受け皿整備」、「1万箇所以上の小学校一体化」、「子どもの主体性を尊重し、子どもの健全な育成を図る放課後児童クラブの役割を徹底」などが挙げられています。
しかしながら、延長保育の仕組みがある保育園と違って学童保育は通常18時で終わってしまうところも多く、小学生になったばかりの子どもが家で一人で過ごすことになる、いわゆる「小1の壁」などの問題は依然として多く、「30万人分の受け皿整備」に向けた達成率は、2022年5月の時点でも5割程にとどまります。また、小規模な聞き取り調査及び市町村のサイトを参考に調べてみても、施設利用料の有無やサービスの内容が地域ごとに大きく違うことがわかります。特に他と比べて大きな問題を抱えていると思われる地域では、インターネット上に「小学校4年生以上の利用申し込みが拒絶される」などの書き込みも見られ、人手不足の影響が伺えます。
国会でも、子ども政策に関する特別委員会はもちろんのこと内閣府や予算委員会などで度々議題には挙がっており、地域格差、時間拡充に対するニーズがあること、学童の待機児童が発生していることは認識されていますが、抜本的・具体的な解決策が示されておらず、解決に至っていない状況と言えます。学童保育については、主に開所場所や人員の不足が問題で、現在の支援金(1人あたり300万円/年)では必要なキャパシティ・開所時間を確保することが出来ていません。
すでに政府が取り組んでいること
政府では「新子育て安心プラン」に基づき、放課後児童対策・こども・子育て支援関連の政策を打ち出しています。具体的には、放課後児童クラブの常勤職員配置、人件費単価引上げ、施設費補助、それら自治体負担の軽減等を行うべく、年度当たり合計1,300億円程度の予算措置が講じられています。また令和6年度予算の状況を見ますと、例えば常勤の放課後児童支援員を2名以上配置した場合には、一施設当たり約650万円が新たに支給されることとなり、放課後児童クラブ運営の賃借料支援は支援年額が令和5年度予算よりも30万円引上げられた330万円となります。この他、施設整備に必要な経費に対する国の補助率も1/3から2/3に引き上げられることになっています。
目指すべき未来の姿
現在の学童問題への政策的な対応では実効性に不足があり、まだ十分とは言えません。自治体ごとに個別の政策も打ち出されている中、国は自治体間の著しいサービスギャップを埋める機能を担うべきと考えます。特に地方では人手不足が著しく、まず人件費を上げることが必要でしょう。学童保育の従事者に支払われる給料を計算したところ一人当たり平均は年間300万円です。20代前半の若者はともかくとして、将来、自身が家族を養うことを考える時には、この給与水準では不安を覚えるのが実情です。また、保育園、幼保園と比べた時の預かり時間の短縮は「小1の壁」の大きな課題です。保育園等では施設により多少の前後はあっても、追加料金を払うことで21時頃までの預かりが可能ですが、一般に学童保育施設では18時が定時、延長しても19時までとなっている所がほとんどです。これでは親が勤め先に時短勤務を申し出る等の対応が必要な場合も多く、子どもを育てながら安心して働き続けることができる社会、とは言えないでしょう。
さらには、少子化対策を見据え「子どもを持ちながら働くこと」へのインセンティブを作りたいと考えます。それにはまず何よりも、親にとっても子どもにとってもストレスの少ない“放課後の居場所”が必要です。具体的には、在籍児童の50%が無償で利用可能なキャパシティを持つ学童保育施設を各小学校に「一体型施設」として整備することが望ましいです(現在の小学校の親の共働き率は60%とも言われています)。また、現在25%程あるとされる「子どもの小学校入学を契機とする離職率」を10%以下に抑えることも望まれます。
未来のために何をすべきか
政策案 | 「児童支援員の待遇改善、職業認知の拡大、学童施設と学校との連携強化」による小1の壁の解消 |
まずは学童保育の運営体制を充実させるべく、児童支援員の待遇改善を図ることが必要です。先述の通り常勤の放課後児童支援員を2名以上配置した場合には、一施設当たり約650万円が支給されますが、これを一施設あたり1,000万円に拡大させます。2名配置の場合、支援員1名あたりの待遇は約300万円/年→500万円/年に改善しますので、学童保育施設に就職を希望する人員の増加が期待できます。「常勤の放課後児童支援員を2名以上配置した場合」の枠が2024年度より新設されたことと、公表されている資料に正確な予算額が記されていない(全体の内数表記のみ)ことから、当該予算をどの程度まで増額させればよいかの正確な試算は出来ませんが、2023年度から2024年度への全体予算の増額分から推計すると、一施設あたり約650万円から約1,000万円に引き上げつつ、補助割合はそのまま(都道府県にも市町村にも同様の増額を求める)とする場合、当該予算の必要額は年間140億円程度と考えられます。あるいは、小学生児童が卒園した保育園で放課後の見守りをしてくれるサービスがあれば尚良いと考えます。具体的には、保育士の人件費を充当すべく一人当たりの人件費増分25万円×40,000所(国内の保育園の概算数)を手当する場合、年間約100億円の予算規模となります。(なお保育園には児童一人当たりの面積要件がありますが、施設拡張が現実的でないこと、保育園児ではなくあくまで卒園者を対象とする見守りとなることから、面積要件を考慮せずに検討しています。)
次に、介護職や保育職と比べて「児童支援員」に関する認知が一般に乏しいため、この職業に就きたいと目指す人口が少ないことが考えられます。そこで職業としての認知を拡大するための広報活動も必要と考えます。職業説明会等を含めた総合的な広報活動の実施例である令和6年度内閣府予算の「障害者施策の推進」の予算規模を参照すれば、児童支援員の職業説明会や求職相談窓口の設置等を含め、1億5,000万円程度の予算が必要です。その他、関連する調査事業等も必要になると考えられます。
最後に、学校と学童の連携を推奨することも学童施設の使い勝手をより良くし、小1の壁の解消につながります。具体的には、教員と児童支援員の情報連携をシステム面で支えることを企図し、システム導入費を補助することが考えられます。IT導入補助金の通常枠の上限額(150万円)を参照し、全ての学校に学童との連携システムを導入すれば、150万円×22,000校(国内の公立小学校の概算数)で330億円の予算規模となります。
これらをまずは政府戦略として政策指針へ盛り込むべきです。「こどもまんなか実行計画」の「放課後児童対策」の項目に「常勤職員となる児童支援員の魅力発信や、学校と放課後児童クラブ等との連携強化等に取り組む」という文言を追加し、令和7年度以降の予算で、2030年までに上記の政策パッケージを実現するよう盛り込むことを提案します。国会でも議論になっているように、放課後児童対策は世の脚光を浴びていますが、問題は財源です。まず「子ども・子育て支援金」の中から財源を賄うことを想定しますが、足りない場合、国債歳入からの調達を行ったり、一部施策を市町村等に移管してふるさと納税の「子育て支援枠」と紐づく返礼品を用意できるような制度を整えたりすることで、地方で財源確保が出来る体制を整えることを考えるべきです。